蒼輝氏のコメント
〜前書き〜
この作品はWitch様の作品“Milkyway2”を基に書いたSSです。
私はこの文章を読む前にMilkyway2をプレイすることをお勧めします。
それはネタばれのようなところも含まれているため、これを先に読んで原作の感動がうすれてしまうことは望ましく無いからです。
また、書くキャラの言葉遣いなどは出来る限り気をつけたつもりですが、なにか直した方がいいと思ったことなどは教えていただけると幸いです。





―大切な温もり―


「あれ?…ここは?」
自分は病室にいたはずなのに、目の前にはきれいな景色が広がっている。
空気はとても澄んでいて、日差しはとても柔らかい。
(あなたはもうすぐ終焉を迎えるのよ)
「誰?どこにいるの?」
不意に聞こえてきた言葉にありすは我に返り、辺りをうかがった。
するとどこからともなく女性が目の前に現れた。
「迎えに来たわ。犬塚ありす」
「えっ?どうして私の名前を?あなたは誰ですか?」
「私はヴァル。ある人にお仕えしている終焉の番人よ」
「終焉って?」
「簡単に言うわ。あなたはもうすぐ死を迎えるわ。
私はその死を迎えた者に新たな人生を授ける者」
死を迎える…。実に重い言葉だ。だがありすは冷静に納得している様子だった。
「何れこうなることはわかってました。これでやっと親孝行できるんですね。
もう迷惑かけなくていいんですね」
(本当にそれでいいの?それで納得していいの?)
「…誰?」
後ろから声が聞こえてきた。
振り向くと誰か近づいてきていた。
あれは……私?
いや違う。あの人は確か…柚さん?
振り向いた先にいたのは柚木だった。
ありすは何度かMilkywayのトイレで会ったことがあった。
柚木を見たヴァルは冷たい微笑を浮かべている。
「あなたは…。ふふふ、何故あなたが干渉する?あなたには何の関係もないこと。
人間が口出しすることではない。それに生きていても辛いことだけよ。
終焉は変わらないというのに」
圧倒的な威圧感だったが柚木はひるむ様子も無く会話に割り込んだ。
「ありすちゃん、あなたはそれで満足なの?あなたはまだ完全には死んではいないのよ。
大事な人がいるんじゃないの?その人を悲しませていいの?」
…大事な人?沙耶ちゃんだって納得してくれるだろうし……それに…他には…
(…りす、ありす!ありす!!)
あ…この声は、わたしの最も大切で、大好きな…
(ありす、俺待ってるから。必ず戻ってこいよ。約束だ!)
そうだ、約束したんだ。
「祐樹さん!!」
気付いたら叫んでいた。
会いたい。別れたくない。
涙がこみ上げてくる。
「私まだ死にたくない!辛くても我慢します。今まで以上に頑張ります。
だから……だから…
生きて…生き返って…祐樹さんに会いたい」
「私は終焉の番人。死を見送ることが仕事。変えることは…」
(いいでしょう。変えてあげましょう)
また別の声だ。すると突然金髪の冷たい感じの女性が現れた。
それを見たヴァルの表情がこわばった。
「リリス様!ですが…そんなことをなさったら…」
「ヴァル、あなたは誰に指図している?それに私を誰だと思っているのかしら」
「はっ。出過ぎた真似を…」
ヴァルを一喝するとリリスはありすの方を向いた。
「くどいようだけど、生きることは死ぬことよりも辛いことよ。
それでも生きたいと言うなら生きたいと強く願いなさい。そしてあがいてみせなさい」
そう言ってリリスは何かを詠唱しだした。するとありすの体を光が優しく包み込んだ。
何だろう。とても温かい…。そうだ、お礼言わなくっちゃ。
「ありがとう柚さん。私頑張って生きます」
「ふぇふぇ♪ありすちゃん、恋の方も頑張ってね」
お礼を言い終えるとありすは強く強く願った。生きたい…と。
体を包んでいた光がいっそう増し、そしてありすは光の玉となり飛んでいった。
「ヴァルよ、そんなに私はおかしいことをしたかしら?」
恐縮しているヴァルにリリスは肩の力を抜かせるつもりで話しかけた。
「そ、そのようなことは…。しかし何故あの者を?」
「あなたに良く似ていたわ。死を受け入れる覚悟は出来ている。
だが、必要とされればその者の力となりたがる。
それにこれからどのようにあがいていくのかを見てみたいからね」
そう言い終えるとリリスはまたどこかへ消えていった。
「あなたも早くそのカルマから解放されるといいわね。そのときにまた会いましょう」
ヴァルも消えていった。
「私はこのままでもいい。
ただ祐二君のことを…それにありすちゃんを見守っていくだけだから」
そして柚木も消えていった。



………ありすの鼓動が止まってどのくらい経つだろう。
計器が虚しくあの音を告げてからまだ1時間は経過しただろうか。
だが沙耶にはほんの数分前のことのように感じていた。
祐樹はここにはいない。この一報を聞いて走り出ていってしまった。
まだ死を認めたくないのだろう。
看護婦である沙耶は悲しいがこんなことには慣れている。
「最後までちゃんとおしゃれさせなくちゃ」
目に溜まっていた涙をぬぐいありすにあの耳飾をつけるためありすの髪をかきあげた。
ふぅ。
沙耶の手にありすの息が吹き付けられた感じがした。
沙耶は一瞬手を止めた。気のせいだと思いながらももう一度鼻の近くに手を当てた。
ふぅ。
気のせいじゃない。確かにありすは呼吸している。
「ありす!ありす!!」
沙耶はありすの名を何度も呼んだ。するとありすの目がゆっくりと開かれた。
「あ…れ?…沙耶ちゃん?」
「ありす!!」
沙耶はありすを思いっきり抱きしめた。
「い、痛いよ沙耶ちゃん」
ありすの言葉を聞き、少し冷静さを取り戻した沙耶は急いで担当医等を呼び寄せ異常が無いか念入りに検査した。
「し、信じられない。奇跡だ、奇跡が起きたんだ。心臓も今までよりも力強く鼓動している」
「じゃ、じゃあ先生ありすは…」
「ああ、これならあとはありすちゃんの回復力だけで完治するだろう」
それを聞いた途端あらわせないほどの気持ちがこみ上げてくる。
担当医等は互いに手を取り合い喜んだ。
しばらくして落ち着きを取り戻した病室にはありすと沙耶、二人だけが残っていた。
「そう言えば祐樹さんは?ねぇ、どこにいるの沙耶ちゃん」
「あなたが死んだって聞いて飛び出して行っちゃったわ」
「死んだって。私、ちゃんと生きてるよ」
「今はね。少し前まで心臓が完全に停止していたんだから…本当に死んだと思ったんだから」
沙耶の目からはまた涙が溢れてきていた。
「沙耶ちゃん、心配かけてごめんなさい。それより少し前ってどのくらいなの?」
「三時間くらい前かな、まだ日も暮れきってないし」
「じゃあ今日中に祐樹さんに会いたいよ」
「なっ、何を馬鹿なこと言っているの。今手術を終えたばかりじゃない」
「我が儘なのは分かってる。…けど今会いたい。祐樹さんとの約束守りたいの!」
少しためらったがいつも以上のありすの様子に沙耶は了承した。
「でも、どこに行ったかは分からないのよ」
(思い出の場所に…そうすれば会えるよ。祐二君もそうだったから…)
「えっ?」
突然柚木の声が聞こえてきた。
私にとっての思い出の場所……あっ!
「沙耶ちゃん、Milkyに行けば…そこなら祐樹さんに会える気がするの」
「わかったわ。私もあそこに用があるし、それじゃあ回診が来る前に行くわよ」
そして沙耶はありすを連れてこっそりと病院を抜け出した。
店に着いた沙耶たちはお客にばれないようにいつものところから更衣室に入った。
丁度そこには倫が椅子に座っていた。
「おぉ、沙耶やないかい。もう戻ってこれるんか?」
「そのことなんですが、オーナー、私本職に戻ります。今までお世話になりました」
「そか、やっぱ辞めてしまうんか」
「はい、ここにいる理由もなくなってしまいましたし、私がなりたくてなった職業ですから」
「ええっ?沙耶ちゃんやめちゃうの」
「おっ、ありすもおったんか。重病だって聞いとったから心配しとったんやで。
もう出てきて大丈夫なん?」
「それなんですが今回はこっそり…。実はですね…」
沙耶は倫にあの時起こった奇跡を倫に話した。
倫は感動した様子で目じりの涙をぬぐった。
「エエ話やないか。ちょっと待っとってな、ウチの混対スタッフに聞いてみるさかい」
そう言うと倫は無線をかけはじめた。
「ああ、ウチや。そっちのほうで赤川君見かけんかったか?ん?おぉ!そか、おおきに」
「どうでしたか?」
「居ったで。今こっちに向かってるらしいんや。
せや、沙耶、アンタの口からはありすのこと言うたらあかんで」
「えっ?……あっ、ふふふ分かりました」
沙耶と倫は妖しく笑っていたが、ありすは二人が何故笑っているのか分からなかった。
「それじゃあ、私がまず祐樹君に会うから、合図したら出てきなさい」
そう言って沙耶はそとへ出て行った。そこにはうなだれている祐樹の姿があった。
ああ、あれが私が会いたっかった人、私を待ってくれてる人。
(祐樹さんあんなに落ち込んでる。はやく元気付けてあげなきゃ)
沙耶からの合図が出て、ありすはそっと祐樹に近づいていった。
「・・・元気・・・出してください」
この声を聞いて祐樹の目からはいっそう涙がこぼれた。
「約束したじゃないか!元気になるって!!」
「きゃ。・・・・大きな声を出すからびっくりしちゃいました」
「……あ…ありす」
祐樹は混乱している。
当然だ。死んだといわれたありすが、会いたいと願ってる自分の前に現れているのだから。
「・・・祐樹さん、ただいま・・・私、約束守りましたよ」
それ以上は言葉にならない。ただ幻でないことを証明するように祐樹の手を優しく握った。
握られた感触は本物だ。その感触に祐樹は声を出せないでいた。
「大変だったんだからね、こっそり外出させるの。
まぁ・・・病院クビになったらMilkyに就職かもね」
クスクス笑いながら言うと沙耶は再び店の中へ入っていった。
「黙ってて……ごめんなさい」
祐樹を怒らせてしまったと思ったのか、ありすは黙っていたことを謝った。
次の瞬間、ありすの体全体を優しい、温かい感触が包み込んだ。
「お帰り・・・」
「はい・・・」
祐樹は優しく、力いっぱいありすを抱きしめた。
ありすもそれに答えるように強く抱き返している。
温かい、これが望んでいた温もり。大切な人の温もり。
この温もりが夢でないことを願うように二人は長く長く抱き合っていた。



・・・・・・30分後
店の中から沙耶が出てきた。
「ありす、そろそろ戻るわよ」
「エェ〜?まだココに居たいよ」
「我が儘言わないの。早く戻らないと私本当にクビになっちゃうかもしれないのよ」
「でもクビになったらMilkyに就職するんでしょ、沙耶ちゃん。私はそっちの方がいいな」
「俺もそっちの方がいいですね」
「ありす!」
ごちん!
沙耶のげんこつがありすに飛んだ。
「なに馬鹿なこと言ってるの。それに祐樹君も」
「ふに〜。痛いよ沙耶ちゃん」
「まったく・・・これからありすは面会謝絶にしてもらおうかしら」
「さ、沙耶さん、それだけは勘弁を」
「うふふ、冗談よ。でもこれ以上駄々こねたら本当にしちゃうかも」
「それじゃあ、祐樹さん」
「うん、俺も毎日行くからしっかりと治すんだよ」
「はい」
力強く返事をするとありすは沙耶と病院へ帰って行った。
「はぁ〜、若いって羨ましいねぇ」
不意に声がした方を振り向くと健治と倫が妖しい笑みを浮かべていた。
「て、店長。いつから見ていたんですか」
「いつからって、君がうなだれているところ辺りかな〜」
「ホンマ、エエ画になりよるな。これはまゆぽんに連絡いれてっと…」
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ〜」
電話をかけようとしている倫を祐樹は必至に止めにいった。
「ちょっとお兄ちゃん」
店の中から晶がすごい見幕で出てきた。
「おお、晶か」
「晶かじゃないわよ。まったく、祐樹君たちがいなくて忙しいときになにサボってるのよ」
「いや、ちょっとな。赤川君がな…」
「ゆ、祐樹君、どうしたのその顔。なにか辛いことでもあったの?まさか…お兄ちゃん達」
「あ、晶ちゃん。いや、そういうわけじゃ…」
どうやら晶は健治が祐樹にひどい事をしたんだと思ったらしい。
祐樹は急いで晶の誤解を解こうとしたが次の倫の一言で事態は更に悪化した。
「そうなんや。健治ったらな、ありすが生きてることを赤川君には絶対に秘密にしといたほうがあとで面白いもん見られる言うてな、ウチや沙耶に口止めさせよったんよ。ウチは言うた方がエエって言うたのに」
「ちょっちょっと待て倫。おまえが『エエもん見れるで』て言うから俺は見に来ただけで…」
「そうなんだ。お兄ちゃんはそういうことしないって思ってたのに」
「晶、お前そりゃちょっと誤解しすぎだ。いくらお前が赤川君のことが…」
「問答無用!」
そう言うと晶は健治にそこらのものを投げ出した。
慌てて健治は店の中へ逃げ出し、晶もそれを追いかけていった。
Milkyらしい光景に祐樹は笑っていた。
「ところでオーナー、秘密にしておくと面白いってどういうことですか?」
「あっ、そう言えばウチもやることがあったさかい。…ほな、そういうことで」
倫は一目散に店に入っていった。
祐樹は呆れながらもこんな日常が戻ってきてよかったことを今なお噛みしめるのだった。



「…でさ、悠さんまた怒っちゃって」
「あははは、相変わらずですね」
あの出来事から一ヶ月、病室にはありすと祐樹の明るい声が響いていた。
ありすの容態は見る見るうちに回復している。
はじめのうちは祐樹もありすの見舞いに専念していたが、二週間ほど前からはありすの願いということもあって五時からのシフトでMilkyでバイトすることにしている。
「そうそう、それでね…」
その時、コンコンとノックが聞こえ、ドアが開けられた。
「盛り上がってるとこ悪いわね。ありす、回診の時間よ」
沙耶とともに数人の看護婦と一人の医者が入ってきた。
「そう言う訳で悪いけど祐樹君は廊下で待っててくれる?」
「分かりました。ありす、外出るついでに飲み物買ってくるけどいつものでいい?」
「うん、ありがとう」
看護婦達と入れ替わりに祐樹は廊下に出て自動販売機に向かった。
「祐樹君ちょっといい?」
後ろから不意に呼び止められた。
「あれ、沙耶さんはありすの回診じゃないんですか?」
「私は祐樹君に用があって…ありすの回診、今日はちょっと時間かかるみたいだから…そのうちに、ね」
「用って何ですか?」
「…ここじゃ話しづらいから屋上でいい?」
「いいですけど…」
あのときのような沙耶の表情に不安を感じながらも祐樹は沙耶と屋上へ向かった。
「用って言うのはね…ありすのことについてなんだけど…」
「な、何ですか?」
「ありすの容態が……」
祐樹はものすごい不安に駆られた。
咽が鳴ったのが分かった。心音も妙に激しい。寒いと感じたのは屋上だからだろうか…
「まさか・・・」
まさか・・・また悪くなったのか?もう時間が無いのか?
「大分回復してきたから、退院の日が決まったわ」
「………は?」
退院?ありすが…退院!?
「ん?どうしたの祐樹君。そんなあっけにとられたような顔しちゃって」
「えっ、だって…ずいぶん早いですし、それに沙耶さんがあの時みたいな顔で言うからてっきり…」
「ふふふ、祐樹君は本当にいぢめ甲斐あるわね」
「さ、沙耶さん」
「ごめんなさい。…でも、そんな純粋なところが好かれるのかもね」
「え?」
「なんでもないわ。それより退院の日なんだけどね、来週の土曜よ」
「本当ですか?ついにありすちゃん、本当に元気になるんですね」
「そうよ。それでね、祐樹君にはありすのことをお願いしたいの」
「どういうことですか?」
「ほら、前にも話したでしょ。私はありすの看護をしながらMilkyで働いてたって。
ありすは退院するわけだから今までのようにいかないのよ。
退院と言ってもまだ体力は前とあまり変わらないからありすが無理しすぎないように見ていて欲しいの」
「お安い御用です」
「それと、いくら健康になったからってすぐに襲ったりしちゃだめよ」
「分かりませんよ?ありすちゃん、スタイルいいですから」
「祐樹君」
「じょ、冗談ですよ。さっきのお返しですって」
「もう…まあそろそろ戻りましょうか。ありすの回診も終わってるでしょう」
そして沙耶は入り口に向かって歩き出した。
「あっ、そうそう」
屋上の扉に手をかけた沙耶は祐樹の方に振り向いた。
「退院のことはありすに話さないでね。あの子、きっとあなたを驚かそうとすると思うから」
そう言って沙耶は戻って行った。祐樹も逆にありすを驚かしてやろうと考えながら屋上を後にした。



……退院の日
沙耶の予想通りありすは退院のことを告げず、この日に限って検査があるから病院に来ても会えないからバイトの方に行っててくださいと言ってきた。
(ありすって本当分かりやすいな)
「赤川君、こっちはもう準備できたからあとはありすちゃんを待つだけだよ」
「はい、ありがとうございます、店長」
祐樹はありすの退院のことをMilkyのみんなに話し、こっそりとお祝いの準備をしていた。
Milkyはいつものように賑わっている……ように見える。
実はこれも全部仕組まれているのである。
倫の提案で客はこの日に入店、並べる人を全て抽選で決め、いつものようにしてもらっていたのだ。
まあ、抽選の時に暴動がおきたのは言うまでも無い。
しばらくして聞きなれたエンジン音が聞こえてきた。
ありすだ。沙耶さんも一緒だ。
「それじゃ、みんな配置についてや」
倫の掛け声とともに再びいつものMilkyを装った。
そして…
「皆さんおはようござい…」
「ありすちゃん、退院おめでとう!!」
「きゃ」
ありすの入店にあわせて大喝采とともに紙ふぶきが舞い散る。
「はいはーい、わんちゃんこっち来て」
礼はありすをカウンター席へ連れて行った。
「わあ、すごい」
ありすはカウンター席を見て驚きの声を上げた。
カウンターには健治と藍、恋水によって作られた数々の料理がずらりと並べられていた。
「ありす、退院本当におめでとう。はい、これはみんなから」
祐樹は机の下に隠してあった包みをありすに渡した。
「ありがとうございます。…でも、どうして祐樹さん知ってたんですか?」
不思議そうな顔をするありす。そんなありすの頭を祐樹は撫でて言った。
「ははは、ありすは嘘が下手なんだから、俺を驚かせようと思ってもだめだよ」
そう言って祐樹がありすの頭を優しく撫でていると、
「そうそう、祐樹君とそっくり」
「…うん…お兄ちゃん分かりやすい」
晶と裕美はクスクスと笑って、ありすの隣に座った。
「やっぱり好きな人に似てくるものなのかな」
晶は軽くため息をはき物思いに耽っていた。そこへすかさず健治は茶々を入れる。
「ははぁーん、だから妙に最近素直なのか」
「なっ、何言ってるのお兄ちゃん」
思わず慌てる晶。
「まだあきらめるのは早いんじゃないか。結婚したわけじゃないし」
「結婚しても大丈夫。あゆみたいに愛人になればいいんだよ」
「何馬鹿なこと言ってんのよ」
「まあ、晶のようにチビでぺチャパイじゃどうしようもないけどな、はっはっは」
「ば〜か〜あ〜に〜き〜。……殺す」
晶の怒りを感じ健治はあゆを連れて逃げ出し、晶は二人を追いかけて行った。
一方……
「おにーたんはれもんのかれしですのに…」
「恋文、あきらめること無いですの。奪っちゃえばいいんですの」
落ち込んでる恋文の頭を恋水は優しく撫でた。
「恋水さん、そんなこと恋文ちゃんに教えちゃだめですよ」
「あら、咲夜。あなたも奪うくらいの気持ちでいかないからいつまで経っても彼氏が出来ないんですのよ」
「いくらなんでも奪うのはいけませんよ〜」
「そんなだとお姉さまみたいに…」
「あら恋水ちゃん、私みたい…どうなるのかしら?」
後ろからの殺気に焦る恋水。
「お、お姉さま。べ、別に…みっともない売れ残りになるだなんてこれっぽっちも思ってるとかいないとか」
「るぇみ!こっちにいらっしゃい。(ぎゅぅぅぅ)」
「痛い痛い痛い!お耳が千切れてしまいますわ〜」
「はぁ〜、…ままもしんぽすればいいですのに」
恋文と咲夜に見守られる中悠に引きずられていく恋水であった。

相変わらずごたごたが絶えない。
(これなら仕組まなくてもよかったような…)
カウンターにはありすと祐樹が残されていた。
「はい…これは俺から」
誰もいないのを確認して、祐樹はポケットから箱を取り出した。
「ありがとう。開けても…いいですか?」
「どうぞ」
ゆっくり箱を開けるとそこにはペンダント式のロケットが入っていた。
「わぁ〜。きれい」
「俺が掛けてあげるよ」
ペンダントを掛けようとして祐樹とありすの距離が一気に近づく。
その時…

―チュッ。

ありすの唇が祐樹の唇を求めた。
「ゆ、祐樹さん。お返しです」
「あ、ありす」
祐樹はきょろきょろと見回した。誰も見てないようだ。
「わ、私じゃ駄目ですか?」
「いや、駄目なもんか。ちょっと今の状況だとね…。誰も見てないようだから…」
今度は祐樹がありすの唇を求めた。
「やっぱりエエもん見れたな〜」
「オ、オーナー」
突然の倫の出現に祐樹とありすは顔を真っ赤にした。
「ま、店ではほどほどにしとき」
ありすと祐樹はしばらくそのまま固まっていた。


「いらっしゃいませ。“Milkyway”へようこそ」
あの頃のようにありすの元気な声が響いている。
俺が初めて入店したときに聞いたのもこの声だ。
あいかわらずありすは外の掃除を一生懸命行っている。
きっと自分の両親が来たときにいち早く会えるということだろう。
冬ももう本番。あまり無理をして欲しくは……
「ックシュン」
思ってるそばからありすはくしゃみをした。
「ありす、冷えてきたからそろそろ入ろうか」
「が、頑張ります!」
「頑張らないの。今夜は特に冷えるんだから」
「で、でも明日来てくれるお客さんのために」
「だ〜め。こんなに冷えてるじゃないか」
軽くありすを抱く。
するとありすはぎゅっと抱き返してくる。
「あの、もう少しこうしてていいですか?」
「…中のほうが暖かいよ?」
「ううん、祐樹さんとっても温かいです」
「じゃあ…もう少しだけ」
体全体でありすの温もりを感じる。
これからどんなに時間が経ってもこの温もりを守って生きたい。
あの時失いかけてまた手に入れた。もう失くしたくない…
大切な温もり。
雪がちらついてきた。…明日は積もるかな?
降り出した雪は外灯によって宝石のように輝いていた。


〜END〜



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